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interview鹿児島の経営者 対談シリーズ

鹿児島の経営者 対談企画01

投稿日:2023年03月03日

鹿児島の経営者対談企画

コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻を機に時代は大きく変わろうとしている。時代の転換期に鹿児島の企業経営者は変化にどう対応し、企業経営を通して地域振興にどう貢献していくのか。城山観光の東清三郎社長(66)とウエスタンカーニバルの上村元太取締役(32)に対面型サービス業の若手と先輩経営者の立場で語ってもらった。

ターニングポイントをプラスに

上村 私はサッカー選手の夢を追い、鹿実サッカー部を経てブラジルにサッカー留学しました。1年のビザ期限が切れて一時帰国していた時に父の持病が悪化し、一日中働く母の姿を見て、ブラジルにまた行くべきか自問自答した末、両親を助けたい、笑顔にしたいという思いで家業の焼肉店を継ぐ決断をしました。サッカーしか知らない私がいきなり経営者になるのに戸惑いがありましたが、周りの協力でこれまで12年間やってこられました。

 私の場合、宮之城高1年の時に川内川が氾濫して自宅が流され、プレハブで3年間暮らしました。水害前は県外の大学に行くつもりでしたがさすがに迷いました。そんな時、両親が営む酒店を訪れる金融機関の人から、高卒も活躍できて、宮之城支店長も目指せるんだよと聞き、鹿児島銀行に就職しました。以来40年鹿銀に勤めた後、城山観光の社長になって8年目になります。

24歳の時には肺疾患で6カ月間入院しました。入院当初、これで私の銀行員生活も終わったなと悲観していたところ、担当医の先生が「人生は70~80年、銀行員生活も40年ぐらい。この数カ月間はいい勉強の時間をもらったと思って本を読んだり楽しみなさい」と言われました。その言葉をきっかけに入院生活をプラスに変えられました。38歳から2年間委員長を務めるなど労働組合の活動にも10年間従事しました。現場と経営陣との間で動き回った経験は銀行の役員や城山の社長になってからも生きています。人生を振り返った時にいろんなターニングポイントがあり、その都度、自分なりに決断して今があります。いろんな出来事をプラスに、自分はこの道に導かれたのかなと考えています。

 

継承と積み重ねでサービス力アップ

上村 東社長が就任された2015年6月に私は城山で結婚式を挙げました。以前から城山の接客レベルは違うから勉強になるよと言われていたし、エメラルドホールで結婚式を挙げたいという夢がありました。店を継いで4年目、父が亡くなった翌年で、結婚式をどうするか迷いましたが、家族や親せきを元気にしたいと盛大に行いました。実際、結婚式が長引いて4時間を超えましたが、スタッフの方の姿勢や表情、立ち居振る舞いはすごいなと感動しました。

 上村さんは、私が社長に就任して最初の結婚式だと聞いています。結婚式は身近な人を元気にしてくれる力がありますからね。

上村 ホテルの隅々まで行き届いたサービスはどうやって確立されたのでしょうか。

 私が城山に入る前から、長年の日々の仕事の中で従業員一人一人が先輩から後輩へと受け継ぎ、積み重ねられてサービスのレベルは上がってきました。現状維持ではなくて常にサービス力を上げていくという思いが職場にあふれていることが大事です。城山のサービスはさすがだねというお客さまの声を励みに努力を続けています。

東清三郎社長
「事業を通して地域社会に貢献」
城山観光
東清三郎社長
SHIROYAMA HOTEL kagoshima HP

 

人の付加価値をつけて顧客満足を

上村 城山の経営を引き継いでいることで心がけていることは何ですか。

 開業前、鹿児島の聖地である城山にホテルを造ることに反対意見がありました。創業者の保直次氏は、鹿児島が国際観光都市として成長するためには迎賓館のようなホテルが必要だと丁寧に説得されました。鹿児島県民から預かった城山で商売をさせていただく以上、鹿児島の発展にしっかり貢献することがご恩返しになるとも言っていました。私に至るまでの代々の社長、従業員もそういう思いを持ち続けて仕事をしています。

社長というポジションは、日々さまざまな決断を迫られます。昨年亡くなられた京セラの稲盛和夫名誉会長は決断する時の考え方について「人間として正しいか」ということをおっしゃっています。銀行員とかホテルの社長としてではなく人間として間違いがないのかという問いかけが大事だと思います。上村さんは若くして先代の後を引き継がれました。今どんな思いで仕事をされていますか。

上村 子どものころ、店が定休日の火曜日に外食に連れて行ってもらうのがすごく楽しみでした。月曜の夜から待ち遠しくて、車に乗り、店のドアを開け、お店の人から声をかけてもらう、その一つ一つが楽しい瞬間でした。外食の魅力はワクワク感や非日常を味わうことができるところです。おいしい料理は当たり前で、そこに人という付加価値を加え、お客さまに満足していただきたいという思いで仕事に取り組んでいます。昨年から毎月1回、プロのオペラ歌手の先生を講師に、音楽に合わせて体を動かすリトミックを取り入れた接客トレーニングを行っています。訓練を通じて真心のこもった接客には思考力や五感を研ぎ澄ますことが必要だと実感しています。

 

地域の元気とにぎわいを創出

上村元太取締役
「一人でも多くの人を幸せに」
ウエスタンカーニバル
上村元太取締役
やきにく元太 HP

上村 わが社は「外食産業を通じて一人でも多くの人を幸せにする」をミッションに掲げています。私が20歳の時に見つけた父のノートに書かれていた言葉です。私は以前、会社の発展のためにすべてを賭けるのが理想の社長像でした。でも27歳の時、当時2歳の長女の病気をきっかけにまずは家族、周りの人を幸せにすることが大切だと考え、「やきにく元太」を中心に幸せを広げていける経営者になるという目標に変わりました。コロナ禍で隣のラーメン店と毎月のコラボ企画を昨年始めました。その輪を広げ、地域の皆さまにさらに満足していただき、店のある中山の通り、さらに谷山地区、鹿児島の元気につながればいいなと思っています。

 当社は「地域に密着した事業を通して地域社会に貢献する」という経営理念、「誠実・謙虚・感謝」の社是を掲げています。鹿児島は農業と観光で生きている地域です。コロナ禍を乗り越えて海外、県外のお客さまに数多く訪れていただき、鹿児島の街が再び観光客でにぎわい、元気になるお手伝いをしたいですね。10年前のホテル開業50周年の際は「しあわせを、重ねていける場所」という言葉でホテルのイメージを表現しました。コロナ禍やSDGsの取り組みを踏まえ、今年の60周年では城山の森を大切に生かすことがわれわれの責任だと「美しき森、美しき時」を掲げています。シェラトンホテルとは切磋琢磨しながらさらに高みを目指していきます。